『漢方小説』中島たい子著〜第28回すばる文学賞受賞作〜
「西洋医学では『この病気には、この薬』ですが、東洋医学では『病気にかかっているあなたはこういう人だから、この薬』という治療をします。その『こういう』が証です」
「具体的に言うと、患者さんの基礎体力や、暑がり寒がりなどの体質、生まれながらに弱いところ、今弱っているところ、病気の時間的な経過など、もっと個人情報にふみこんで総合的に随時診断するんです。西洋医学的には同じ病名でも、証が違えば人によって薬や治療法が違うこともあります」
「自然治癒力に頼るところが大きかった古代の医学が基礎になっているので、個人レベルで根本から治していくことに重点がおかれてるわけです」
「だから強いてつけるとしたら、あなたの病名は『色々なところが弱い』というあなただけの病気です」
「例えばNBAで言うと、西洋医学の薬は、怪物みたいにデカいMVPプレーヤーがいる勝率の高いチーム。漢方薬は、アシスト、リバウンド、スリーポイントなんかがうまい、そこそこの選手が5人そろってるけどファイナルまでいけないチーム」
トリカブトのような即効性のある生薬は、漢方薬の中では下薬と言われ、必要な時にだけコートに出すベンチ選手のようにしか使わない。あくまでもポイントガードとして使うのは人参や甘草のような上薬、ロングランで効いてくる体にやさしい薬だ。
「中医学には『標治』と『本治』という考え方があるんです。とりあえず障害になっている症状を治すのが標治です」
「東洋医学って西洋医学と違って目盛りがないんですね。水と火とか、邪気と正気とか、すべて相対的というか、シーソーみたいにバランスで考えるんですね」
「そのシーソーが動き続けているわけです。あるとこまで上がると今度は下がっていくし、下がり切ればまた上がる。変化し続けて元に戻る。自然と同様、人の体は絶えず変化し、また循環しているという考え方ですね」