〜 女性と漢方薬 〜
女性のからだは、女性ホルモン分泌の影響を受けながら絶えず変化しています。毎月の月経を始め、思春期、妊娠、出産、更年期はその分泌が特に大きく変化する時期です。これらの女性ホルモン分泌の変化や喪失は、体調や精神面に微妙な影響を及ぼします。月経痛や原因のはっきりしない冷えや肩こり、イライラ感なども、その影響が考えられます。
このような症状は西洋医学では「不定愁訴」「自律神経失調症」と分類され、治療しにくい、または治療の必要がないとされがちでした。
漢方治療は、こうした「不定愁訴」に効果を発揮しやすいことが大きな特徴のひとつになっています。不定愁訴の多い婦人科系に漢方治療をとりいれる医師が多いのもそのためで、これは、実際に症状に悩む女性にとっては福音といえるでしょう。その効果は以前から経験的に広く認められていましたが、近年では科学的な証明も数多く報告され、医師からの信頼も高まっています。
より健康で快適な生活を営むために、女性の皆さん自身が漢方薬を理解し、上手に活用されることをお勧めします!
頭痛、肩こり、関節痛、腰痛
痛みがからだの異常を知らせる信号といわれますが、どんなに調べても原因となる病気が見つからない肩こりや頭痛、関節痛などに悩む人も大勢います。その背景には関節運動を支える筋力の低下、過労やストレスなどがあって、慢性的な痛みという形で現れているのです。
〈治療の視点〉
▽西洋医学の眼
原因となる病気がないかどうかを調べ、病気があればそれを治療します。
病気とは関係のない痛みに対しては、マッサージや運動療法、温熱療法の他、鎮痛剤、末梢循環改善剤などを使います。ストレスが強いときは精神安定薬、腰痛が激しく、生活に支障を来すような場合は神経ブロックも行います。
▽漢方治療の眼
原因となる病気がない場合の体の痛みは漢方が得意とするものです。
〈処方の参考例〉
片頭痛、吐き気のする頭痛→呉茱萸湯
腰痛→五積散、八味地黄丸、疎経活血湯
冷え性の人の肩こり、関節・腰の痛み→当帰芍薬散、加味逍遙散
冷えによって増す腰痛、関節痛→当帰四逆加呉茱萸生姜湯
緊張性の頭痛、肩こり、関節痛など→葛根湯
のぼせのある肩こり→桂枝茯苓丸
水ぶとりの関節痛→防已黄耆湯
精神的ストレスが原因の痛み→半夏厚朴湯、柴胡桂枝湯
不眠症、神経症
「寝付きが悪い(入眠障害)」「夜中に目が覚めて、そのあと眠れない(通眠障害)」「十分眠った気がしない(熟眠障害)」という不眠に悩む人がいます。これらの睡眠障害の多くは精神的な問題が関係している場合が多く、睡眠不足、身体疲労がさらに精神面のストレスとなって不眠を悪化させるという悪循環ができやすいのです。
神経症は心理的原因で起こる精神的な病気の総称です。不安感が強く、感情が不安定なだけでなくからだにも様々な症状が現れます。不眠はその1つともいえます。
〈治療の視点〉
▽西洋医学の眼
自律訓練法などで精神面をコントロール出来るようにし、昼間の生活を活動的にして昼夜で気分のめりはりをつけるように生活面の改善をはかります。不安傾向が強い不眠、神経症には精神安定剤や入眠剤も投与します。
▽漢方治療の眼
精神的な問題は、気のうっ滞によって心身のバランスが崩れている現象ととらえます。そこで、気の巡りを良くして「気・血・水」を整える漢方薬が選ばれますが、症状によって多くの処方が使い分けられています。
〈処方の参考例〉
疲労感が強い入眠障害→酸棗仁湯、加味帰脾湯
イライラ感の強い不眠、不安→抑肝散加陳皮半夏
手足が冷えて眠れない→当帰芍薬散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯
のぼせ気味の不眠→黄連解毒湯
内向的で抑うつ傾向→香蘇散、半夏厚朴湯
虚弱なタイプでものごとに驚きやすく、不安が強い→桂枝加竜骨牡蛎湯
この他、女性で不定愁訴が多い場合には、「血の道症」としてとらえ、当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、女神散などを使います。
便秘、下痢
女性の半数以上が便秘に悩んでいるといわれます。食生活の偏り、精神的影響などが主な原因として、便秘になるのです。
下痢は、急性で発熱を伴う場合は細菌感染によるものが多く、発熱がなくしばしば繰り返す下痢は、原因となる疾患がなければストレスなどで起こる心因性の過敏性腸症候群と考えられます。
〈治療の視点〉
▽西洋医学の眼
便秘には、腸の蠕動を強めたり、水分の再吸収を妨げて便を軟くさせ、排便させる薬で、副作用や習慣性のないタイプが使われています。
下痢には、作用の違う薬が幾種類もあり、下痢のタイプに応じて選ばれます。特に細菌感染による急性下痢は市販薬で抑えずに医師の指示に従いましょう。
▽漢方治療の眼
便秘、下痢、共に、原因となる病気がないことを確認して、治療をします。中間証から実証の人の便秘治療には、大黄という生薬を含む漢方薬が適しています。
過敏性腸症候群の慢性下痢は漢方が非常によく効きますので、試みる価値があります。
〈処方の参考例〉
便秘
慢性の便秘でマイルドに便通を整える→大黄甘草湯
腹満、腹痛を伴う便秘→桂枝加芍薬大黄湯
比較的体力がなくウサギの糞のような便が出る→桂枝加}薬湯、小建中湯
比較的体力があり月経痛、情動不穏を伴う便秘→桃核承気湯
高齢者の便秘→麻子仁丸、潤腸湯
下痢
比較的体力があり、みぞおちがつかえたり、お腹がゴロゴロ鳴る→半夏瀉心湯
胃腸虚弱の水様性の下痢→啓脾湯、真武湯